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IPM実践講座 第2回 IPMを行動へ移す考え方

更新日: 2026/01/28
執筆者 東京農業大学 総合研究所 客員教授 山本敦司

 今回は、まず防除のキホン(基礎)に立ち戻ってIPMを深堀りします。

上手な防除の3条件

 ムリ・ムダのない上手な防除は、まず、①病害虫・雑草の発生生態を知ることからはじまります。次に、②IPM資材を利活用する防除プログラムを立てて実践すること。その上で、③防除法の中核となっている化学農薬を上手に使い、薬剤抵抗性発達も緩和すること、です=図1

防除のキホンとIPM

 そもそも、作物の被害は次の3つの原因が重なると生じます。まず、①そこに病害虫・雑草がいること、次に、②発生に好適な環境であること、そして、③作物自身が被害を受けやすい性質を持っていることです。IPMのさまざまな技術や資材のチームワークで、この3つの原因が重ならないように防除プログラムを考えます。それが、ムリ・ムダがない効率的な防除につながり、さらに薬剤抵抗性発達の緩和にもなります=図2

 IPMの実践においては、各防除法に優劣をつけず、長所と短所を補い合いながら組み合わせていくことが重要です。これは、先に説明した防除のキホンであり、IPM防除プログラムを考える上でも必須です。

IPM=生物的防除という思い込み

 一方、次のような思い込み(先入観)がよく見られます。

 「IPMは生物的防除である」

 「化学農薬はIPMでは削減すべきである」

 実際には、IPMはチームワークで同じゴールを目指す技術であり、生物的防除だけでは成り立ちません。むしろ、化学農薬による初期防除によって、天敵農薬の効果を安定させるのは、良く知られた方法(いわゆる “ゼロ放飼法”)です。
 次に、化学農薬の安全性について、農薬の摂取量の視点から考えてみましょう。農薬は農薬取締法や食品衛生法などに基づき、安全性や環境への影響が評価されており、製品ラベル通りに正しく使用すれば安全性は確保されています。実際に消費者が食品から摂取する農薬量は、多くの農薬製品でADI(一日摂取許容量=ヒトに影響しない量)の1%以下と微量です。農薬の歴史を振り返ると、欠点を認識し克服する努力の積み重ねでイノベーションが進み、現在は安全性や環境に配慮した農薬が主流になってきています。そして、化学農薬はコストパフォーマンスも高く、IPMを支える中核技術です。

4つの防除技術の役割

 IPMの技術には「予防策」と「対処策」の2つの役割があります=図3。まず予防策の目的は、病害虫・雑草が発生しない環境作りです。予防策には、「耕種的防除(栽培方法や圃場環境整備など)」と「物理的防除(侵入阻止、熱・光・色・振動の活用など)」があります。さらに、種子・育苗期処理や土壌消毒などの「化学的防除」、土着天敵の保全などの「生物的防除」も予防策となります。予防策は防除のキホン=図2=でもあり、その後に行う対処策(防除)のムリ・ムダを削減するためにも不可欠です。

 対処策には、「化学的防除(化学農薬)」や「生物的防除(天敵昆虫製剤や微生物製剤など)」があります。病害虫・雑草の発生初期や発生後に処理し、作物へ経済的な被害を及ぼさない密度へ低減します。

資材を適切に使用する

 IPM資材の利活用には3つのポイントがあります。まず、①「適切な防除技術・薬剤」を選ぶことから始まります。そして、②「適切な防除タイミング」で③「適切な施用方法」を実施します。これら3つのポイントをあらかじめ「適切に」考えることが、経済的でムリ・ムダのないIPM基盤の防除への近道です。

※次回「IPM実践講座 第3回 IPMの4つの防除」は2月25日公開予定。

参考資料:「IPMのイノベーション」編:山本敦司・河津圭、2025。

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この記事を書いた人

山本 敦司

東京農業大学総合研究所 客員教授。農学博士(名古屋大学)。日本曹達㈱にて研究所と本社で農薬の研究開発と技術普及に従事(現:退職)。農林害虫防除研究会に「殺虫剤抵抗性対策タスクフォース」設立(2019)。書籍「IPMのイノベーション/日本農薬学会」を編集・執筆(2025年)。日本農薬学会にて運営委員とIPM研究会委員長(2025~)。