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IPM実践講座 第1回 IPMの基礎・考え方

更新日: 2025/12/24
執筆者 東京農業大学 総合研究所 客員教授 山本敦司


 作物を作っていると、病害虫や雑草の発生にいつも悩まされます。その防除を考えるときに、IPMという言葉をよく耳にします。皆さんはIPMとは何か、ご存じでしょうか?この実践講座(連載)では、IPMをひも解いて解説します。

IPMとは

 IPMとはIntegrated Pest Managementの略語で、総合的病害虫・雑草管理と訳されます。異なった個性ある4つの防除のアイデアを組み合わせて、効率的にムリ・ムダのない防除を行う考え方です。かみくだくと「チームワークで同じゴールを目指す個性ある仲間たちのプレー」です。4つの防除は、耕種的・化学的・物理的・生物的防除に分けられます。これを生産現場での現実的な実践の度合いの視点で、階層として図示しました=図1


IPMの目的

 農業生態系、これがIPMの舞台です。IPMのポイントは「農業生態系の中で自然生態系にも配慮しながら、病虫害・雑草を基準なく防除するのではなく、防除技術を取捨選択して組み合わせ、農作物に経済的な被害を及ぼさない発生量・密度へ抑えること」です。
 IPMには大前提があります。それは、防除が経済的であること。すなわち防除のコストパフォーマンスが良く、農業生産者が儲かることです。つまり、「高品質な作物の安定生産」に貢献することがIPMの目的です。
 IPMは理念・理想の時代から実践の時代に入り、その大前提や目的も変遷しています。例えば、農林水産省では2005年の「IPM実践指針」で、当初はIPMの目的を『環境負荷低減』に軸足を置きました。最近では、「総合防除基本指針(2023)」や「総合防除実践ガイドライン(2025)」で、『食料安定生産や農家の収益向上』へ軸足が変わりました。

IPMと総合防除はどう違う?

 IPMは国の施策でも推進されています。農林水産省では2023年に「総合防除」をIPMの法令用語として定め、各都道府県の公的文書でも使用されています。この2つの用語で、内容や考え方に変わりはありません(農林水産省のコメント)。
 一方、本稿では用語「IPM」を主に用います。それは、IPMがグローバル(全世界)で共通に使用され汎用的である上、自然生態系にもより配慮した「管理:Management」を用語で明記しているためです。

農業生産におけるIPMの役割

 農業生産にはさまざまな管理体系が存在します=図2。自然生態系では、総合的生物多様性/生態系管理(IBM/IEM)が基盤となります。農業生産に関わるのは、農業生態系の総合的作物管理(ICM)からです。ICMには2つの目的があり、その一つは作物の収量・品質を向上させるさまざまな管理(作付管理など)です。もう一つは病害虫や雑草から作物を保護することであり、これがIPMの役割です。

IPM実践の考え方

 IPMを簡単に言えば、コストパフォーマンスの良いムリ・ムダのない上手な防除です。それを、四つの実践ステップで進めます=図3


  ▶ステップ1⋯⋯被害の予防:病害虫・雑草の発生しにくい環境の整備
  ▶ステップ2⋯⋯監視と判断:防除要否や防除タイミングの判断
  ▶ステップ3⋯⋯防除の実施:4つの方法を利活用した防除プログラム
  ▶ステップ4⋯⋯経済的価値の評価:経済的利益を得る防除ができたか

 この中で、ステップ1「被害の予防」に重きを置くことが効率的なIPMとなります。またステップ4「経済的価値の評価」では、ムダな防除をせずに農業生産者が利益を得られたかどうかを評価し、IPMの大前提と目的を確かめます。

※次回「IPM実践講座 第2回 IPMを行動へ移す考え方」は2026年1月28日公開予定。

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この記事を書いた人

山本 敦司

東京農業大学総合研究所 客員教授。農学博士(名古屋大学)。日本曹達㈱にて研究所と本社で農薬の研究開発と技術普及に従事(現:退職)。農林害虫防除研究会に「殺虫剤抵抗性対策タスクフォース」設立(2019)。書籍「IPMのイノベーション/日本農薬学会」を編集・執筆(2025年)。日本農薬学会にて運営委員とIPM研究会委員長(2025~)。

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