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IPM実践講座 第3回 「耕種的防除」
今回から4回に分けてIPMの4つの防除について深堀して説明します。各防除の一長一短を知り、効果的な組み合わせでムリ・ムダのない上手な防除を目指しましょう。今回は、耕種的防除です。
耕種的防除の役割
耕種的防除の役割は「予防策」で、「病害虫・雑草が発生しにくい環境を作る」ことです。さらに、「作物の品質と収量の向上」にも貢献します。耕種的防除を次のように「技術の対象/目的」で2つに分けます=表。

①【作物】圃場(ほじょう)の植生管理と作物の栽培管理(作型・作期、抵抗性品種、作物体管理)
②【圃場】圃場環境の整備・管理(土壌・肥培、水、圃場環境・衛生)
耕種的防除は、病害虫・雑草への直接の効果を発揮することは難しいですが、その後の対処策「化学的・生物的防除」の実践のムリ・ムダを省くことができます。すなわち、耕種的防除は、IPMの実践で最も基盤を担う必須の防除方法です(IPM実践講座の第2回、図3を参照)。
圃場の特性に合わせる
一方、耕種的防除は、地域の気象、地理条件、土壌条件や作物の生育状況などに左右されます。このため、自分の圃場で個別技術を選び実践するには、その技術情報を入手するだけでなく、試行錯誤が必要になる場合もあるでしょう。
しかし、耕種的防除を疎かにすることは得策ではありません。
(1)作物を対象とする耕種的防除:圃場の植生管理と作物の栽培管理
圃場の地域特性に合わせて栽培する作物と栽培時期や作型を選ぶと、その圃場での病害虫・雑草の発生リスクの大小が見えてきます。その対応として、作物の栽培管理の前に、圃場の植生管理を考えます。
・輪作体系と圃場の植生管理
まず、複数の異なる作物との輪作体系を計画します。これは病害による連作障害の回避や土壌の保全に役立ちます。
次に、収穫を目的としない補助植物の間作や混作(天敵保護植物、カバープランツやリビングマルチも含む)によって、病害虫・雑草を抑制します。この植生管理で、圃場の生物多様性を促進させます。圃場の天敵類の保護、作物の病害虫抵抗性誘導、害虫の忌避、対抗植物のアレロパシーによる雑草抑制、訪花昆虫(ミツバチなど)の保護や景観の保全などが期待できます。
・抵抗性品種を利用する
病害や害虫に対する抵抗性品種や台木を利用し栽培します。
・作物体を管理する
まず、健全育苗の管理やウイルスフリー苗の利用から始まります。そして、芽かき・葉かきなどの日常の管理作業で、病害虫の発生源を減らします。
(2)圃場を対象とした耕種的防除: 圃場環境の整備・管理
・土壌管理と肥培管理をする
適切な土壌管理は作物栽培の最も大切な基本技術です。一方、土壌は地域や圃場で特性が異なるため、各圃場に合わせた土壌改良資材や施肥方法を選択することが大切です。
土壌改良資材は土壌の物理化学性を改善するものが大半ですが、肥料効果を示すものもあります。また、化学肥料は適正な施肥計画で使用します。
有機肥料や緑肥の利用による土壌微生物叢(そう)の改善も進んでいます。これらの利活用では、病害虫の抵抗性誘導効果や密度抑制効果が見られる場合もあります。
・水を管理する
水の管理はどの作目の栽培でも必要ですが、特に水田での湛水深調整や代かきは大切な管理です。
・圃場の環境・衛生管理をする
予防を念頭に置いた個別対策を駆使します。収穫後の残さ、落葉や切り株の処理は発生源の除去に有効です。病害虫の中間宿主となる植物が圃場近くにあれば、除去も考えます。
農機具・資材などの洗浄・消毒は必須です。また、衛生的に管理された水を栽培で利用します。施設栽培では、温度・湿度の適正な管理も考えます。
圃場の雑草には、輪作や間作・混作(カバークロップ・リビングマルチなど)を利用します。一方、圃場周辺(特に非農耕地)の雑草も、病害虫の発生源になるため除草が必要です。この場合は物理的防除(機械除草など)・化学的防除(除草剤)の助けも大切です。
IPMの真の主役
予防策である耕種的防除は、他のIPM技術と合わせて実践することで、その実力を発揮します。そして、IPM全体の効率を向上させます。
※次回「IPM実践講座 第4回 物理的防除」は3月25日公開予定。
参考資料:「IPMのイノベーション」編:山本敦司・河津圭、2025。
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この記事を書いた人

東京農業大学総合研究所 客員教授。農学博士(名古屋大学)。日本曹達㈱にて研究所と本社で農薬の研究開発と技術普及に従事(現:退職)。農林害虫防除研究会に「殺虫剤抵抗性対策タスクフォース」設立(2019)。書籍「IPMのイノベーション/日本農薬学会」を編集・執筆(2025年)。日本農薬学会にて運営委員とIPM研究会委員長(2025~)。
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